親が認知症になってしまったときの不動産売却手順
2021.11.12
親が認知症になってしまった場合、「所有者本人が不動産業者と契約し、不動産を売却する」という手段を取れなくなってしまいます。
しかし、面倒を見る家族としては、家を売ったお金で施設の入居費や介護費用をまかなったり、引き取り同居したりするために住まない家を手放したりしたいと考えるもの。
そこで今回は、名義人である親が認知症になってしまった場合の不動産売却方法を解説していきます。
所有者が認知症になった不動産を売るのは難しい
親名義の不動産を売却する際、実際に売却を行う家族の方に知っておいて欲しいのが、所有者が認知症になると通常の手段では売却できなくなってしまうことです。
認知症になると記憶が混濁したり、判断能力が衰えたりしてしまいます。
不動産売買契約のような法的行為を行うためには、「本人が本人の意思で判断している」という要素が必要不可欠です。
認知症になると、たとえ本人が署名・捺印して不動産業者と契約し、買い主を見つけて売買契約を交わしたとしても、契約そのものが無効になってしまいます。
「認知症でも本人が同意していれば問題ない」というルールだと、高齢者を狙った詐欺等の被害や親族による財産の使い込み・売却などが増えてしまうため、親が認知症になったら本人による売却はできないことになっているのです。
また、不動産を売却できるのは法律上の所有者、つまり登記簿に記載されている名義人本人だけだと決まっています。
「親が認知症になったから」と子どもが委任状もなく親の家や土地を売却できるわけでないことも、知っておきましょう。
対処法①判断能力に問題がなければ委任状をもらう
親が認知症になってしまった場合の対処法その①は、委任状をもらって本人の代わりに売却手続きを進めるというものです。
認知症といっても、症状がごく軽度で意思能力に問題がないと判断されれば、親が入院していたり施設に入っていたりしても委任状で不動産を売却できます。
ただし、意思能力があるかどうかの判断は、医師の診断書次第です。
認知症の専門家である医師から見て判断能力に難があると判断された場合、委任状を作っても無効になってしまうため、気をつけましょう。
また、基本的に認知症は時間の経過と共に進行していく病です。
不動産売却の開始当初は意思能力に問題がなかったとしても、手続き中に判断能力を失った場合は委任状が無効になってしまう可能性もあるため、委任状を書いてもらう場合はできるだけ早く売却することを考えましょう。
委任状を利用する場合、不動産の売却手順は通常のものと同じです。
不動産業者と契約し、不動産の物件広告を出して買い主を見つけ、売買契約を交わします。
対処法②法定後見制度を利用する
●法定後見制度の概要
親が認知症になってしまった場合の不動産売却方法その②は、法定後見制度(成年後見制度)の利用です。
法定後見制度とは、認知症を始めとしたさまざまな事情で十分な判断能力を発揮できなくなったとき、本人に代わって財産を管理したり契約をしたりできる後見人を決める手続きとなっています。
後見人を決めるのは家庭裁判所なので、法定後見制度を利用する場合は親が住んでいる住所地の家庭裁判所への申し立てが必須です。
また、法定後見制度は、成年後見・補佐・補助の3種類があり、本人の判断能力によってどの後見人になるか変わります。
●申し立てから後見人決定までの流れ
法定後見制度を利用した不動産売却の流れは、以下の通りです。
- 家庭裁判所に申し立てを行う
- 裁判所の職員による調査・判断能力を調べる鑑定の実施
- 調査結果を見て裁判所が成年後見人を決定
- 後見人になったら家裁に不動産売却の許可を求める
- 裁判所からの許可が出たら不動産の売却開始
なお、法定後見人になれるのは、親族または弁護士等の士業などです。
誰を後見人に指名するかは裁判所が決めるため、場合によっては自分以外の親族や専門家が後見人になる可能性も考えておきましょう。
トラブルを防ぐためには、あらかじめ後見人の資格者で話し合いをしておき、親のための住宅売却ができるように段取りを組んでおくことも重要です。
法定後見制度を使う際のポイント
法定後見制度を利用する場合、申し立ての手数料などで約1万円、医師による鑑定が必要な場合は別途5~10万円の費用がかかります。
また、申し立てを弁護士や司法書士に依頼すると、当然依頼料も必要です。
裁判所による調査がある関係上、売却開始までの手続きが複雑なので、法定後見制度を利用した不動産売却に詳しい不動産業者と契約することをおすすめします。
まとめ
親が認知症になってしまった場合、意思能力があるなら委任状を書いてもらい、判断能力を失っていれば法定後見制度を利用するのが不動産売却の手順です。
ただ、どちらの対処法にしても、時間がたてばたつほど認知症の症状は進行してしまうため、早期に売却できるに越したことはありません。
特に、成年後見制度を使った売却には時間も手間もかかるので、相見積もりを取って成約までサポートしてくれる不動産業者を吟味しましょう。