不動産の売り主として知っておきたい契約不適合とは
2020.08.21
2020年4月1日、「瑕疵担保責任」と呼ばれていた不動産売却ルールが、「契約不適合」へと変更されました。
不動産の売り主にとってはあまり違いがないように感じるかもしれませんが、瑕疵担保責任が契約不適合へと変わったことによって、売り主が追うべき責任は以前よりも重くなっています。
売り主と買い主の双方が契約書の内容に納得して署名し、売買契約を交わす以上、トラブルになってから「そんなルールは知らなかった」といっても通用しません。
そこで今回は、不動産の売り主として知っておきたい契約不適合ついて解説します。
契約不適合とは
●民法の大幅な改正で作られた新しい契約ルールのこと
契約不適合とは、「不動産売却において売り主が負うべき責任」について定めたルールのことです。
民法改正まで、不動産売却では、「売り主の知らなかったトラブルは売り主が責任を持つ必要がない」「しかし、欠点を知っていて伝えなかった場合は請求できる」瑕疵担保責任というルールが利用されていました。
しかし、上記のルールだと、「この不動産の問題点を本当に売り主が知らなかったのか」を証明する必要があります。
そこで、「隠れた問題かどうか」ではなく、「契約書に記載されているかどうか」で責任を追求できるようにしたのが、契約不適合なのです。
●売り主が知っておくべき5つの請求権
契約不適合では、「書類に記載されていない不具合」が見つかった場合、売り主がその問題を知っていたかどうかを問わず買い主から責任を追求されます。
具体的には、以下5つの請求権を根拠として、買い主から何らかの要求をつきつけられるわけです。
・追完請求
・代金減額請求
・催告請求
・無催告解除
・損害賠償請求
追完請求は、「壊れた部分を直して欲しい」「問題があるので同等品を用意して欲しい」といった要求ができる権利。
買い主側の利用する請求権の中でも最も基礎的な権利となっており、よほど悪質な契約違反がない限り、まず追完請求が行われます。
2つ目の代金減額請求は、文字通り「契約にない問題があったので、そのぶん値引きしてほしい」と要求する権利です。
壊れた設備を修繕するのが難しい場合や、売り主が必要な対応を取らなかった場合、トラブルの金銭的価値に合わせた金額を取引価格から減額することになります。
3つ目の催告解除は、いわゆる契約解除のこと。
代金減額請求と同じく、追完請求を受けても売り主が対応しない場合に届きます。
ただし、損失額の小さな不具合等であれば、契約解除には至らないとされるケースもあるので、お互いの態度によっては本格的な法律トラブルになる可能性があることを覚えておきましょう。
4つ目の無催告解除は、重大な契約違反があった場合、買い主から一方的に契約解除をつきつけられる権利のことです。
具体的には、
・震災などで建物が全壊し、契約書に記載してある状態の不動産を引き渡せない
・不動産の引き渡しを売り主が拒否した
・「家は渡すが土地は渡さない」など、契約の履行を一部拒否した
といった場合に利用されます。
5つ目の損害賠償請求では、売り主側の落ち度に応じた損害賠償請求ができる権利です。
瑕疵担保責任と契約不適合の違い
瑕疵担保責任と契約不適合には、以下のような違いがあります。
・売り主の責任は契約不適合のほうが重い
・トラブルの内容を知らなくても、書類に記載していれば責任を追求されない
・不具合の抜け漏れが重要なので、より詳細な書類を作る必要がある
ただし、売り主と買い主の双方が合意していれば、契約不適合をすべて免責にする特約も利用できます。
目に見えない不具合が多い古い住まいを売却する場合などは、免責特約を駆使してトラブルを避けましょう。
契約不適合について理解せずに不動産売却を進めるリスク
契約不適合を知らずに不動産売却を進めると、
・口頭では納得していたのに、取引終了後「傷んだ床と壁を直してくれ」と請求される
・取引が終わった数ヵ月後に「支払った代金を一部返金して欲しい」といわれる
・契約書に書かれていない問題があったからと契約解除を求められる
といったトラブルを通じてお金や労力を失うリスクがあります。
「損害賠償請求」と「契約の解除」の2つしか要求されなかった瑕疵担保責任と違って、契約不適合は買主側の請求権が5つに増えているので、法改正によって買い主からの追求が厳しくなる可能性は高いです。
書類作成の手間を面倒くさがったり、書類を簡略化したりすると結局自分が困るので、契約不適合に合わせた隙のない書類作りを心がけましょう。
まとめ
民法の大規模改正に合わせて、不動産売却の瑕疵担保責任が契約不適合へと変わりました。
契約不適合では、「売り主が問題を知っていたか」ではなく、「書類に書かれているか」で売り主の責任が追求されるので、従来の不動産売却よりも細かな書類作りが必要です。
法改正に合わせた契約書作りや、免責特約のカスタマイズ等も必要になるため、2020年4月1日以降に家を売る場合は、プロの不動産業者と相談しながら売却準備を整えましょう。