両親が老人ホームに入り空き家を売却

不動産の売却は不動産の名義人本人が行う必要がありますが、老人ホーム入居後に空き家となった実家を売却するケースでは、両親の高齢化により判断能力が低下している場合があります。このような場合にも基本的には上記の原則に従う必要がありますが、法定後見制度を利用することで、名義人の代わりに不動産の売却をすることもできます。

老人ホームの費用は?

老人ホームにもさまざまなものがあり、入居時の一時金が無料のものから、数百万円のものまであります。用意できる費用との兼ね合いと、自分の希望とを併せて考えると良いでしょう。

<希望条件を明確にする>

老人ホームに入居してどのようなシニアライフを送りたいのか、最低限どのようなサービスがついているのが良いのかなど、希望条件を明確にしていきます。

<資金計画を立てる>

老人ホームへの入居には入居一時金と、毎月かかる食費や管理費用、水道光熱費、家賃などが必要です。入居時に必要な入居一時金はいくら用意できるのか、毎月の費用はどの程度用意できるのか、また先々の病気やお葬式費用など予想される費用など全体の資金計画を立てておく必要があります。

<何にお金がかかるのか>

老人ホームの入居には、入居一時金と食費などの毎月発生する費用、介護保険の自己負担分などの費用が発生します。

●入居一時金

入居一時金とは、老人ホームに入居する時に最初に必要な費用です。老人ホーム内の自分の部屋や各種施設、サービスを終身利用する権利に対して支払います。ただし、入居一時金は、「終身利用権」であり、建物の「所有権」ではありません。入居一時金が無料の老人ホームもありますが、300~500万円が平均、多いところは1億円といったところもあります。

●食費

食事付きの老人ホームの場合、食費を支払います。月々3万円~

●管理費

老人ホームの施設の管理のために必要な費用、月々3万円~

●水道光熱費

利用した分の水道光熱費。月々5千円~ですが、管理費に含まれる場合もあります。

●家賃

老人ホームの部屋を利用するための家賃。月々5万円~

●介護費用

老人ホームによって、施設でサービスを用意しているところと、外部のサービスを利用する場合があります。どちらの場合でも介護費用は、受けた介護サービスの1割の自己負担で大丈夫ですが、施設のサービスを受ける場合には、施設の分類により受けるサービスの内容と費用が異なるので注意が必要です。要支援や要介護など、受ける必要のあるサービスによって異なりますが、月々6千円~3万円程かかります。

<具体例>

以下に、有料老人ホームに必要な費用の例を示します。

入居時費用 300万円
月額費用 家賃5万円+管理費3万円+食費3万円+介護保険料6千円=11万6千円

この場合、入居時に300万円のまとまった資金が必要で、毎月11万6千円を老人ホームに支払う必要があります。これ以外に趣味で使うお金やお菓子なども考慮しておく必要があるでしょう。

他人名義の空き家を売却するための手続き

さて、両親が老人ホームに入り、空き家となった実家を売却する手続をする場合ですが、たとえ家族であっても、あなたが直前まで実家に住んでいたとしても、他人名義の不動産を、名義人の承諾なしで売却することはできません。
もちろん、名義人を変更することができれば売却することができますが、もともとの所有者の承諾がないと名義を変更することができませんし、その場合評価額が一定額以上であればご両親からあなたへの贈与として贈与税を支払う必要が発生します。

<名義変更でかかる費用と贈与税>

家族名義の不動産を売却したい場合、その名義を自分に移すと、所有権移転のための費用や贈与税が発生します。所有権移転のための費用は、登記事項証明書や住民票、印鑑証明書、評価証明書代などで数千円程度、登録免許税が固定資産税評価額の0.4%かかります。

例えば、1,000万円の評価額の物件であれば、登記事項証明書等の各種書類と登録免許税で5万円程、さらに所有権移転を司法書士に依頼した場合には司法書士に支払う報酬がありますので10万円程かかると考えておきましょう。
さらに贈与税ですが、1,000万円の両親からの不動産の贈与であれば30%(控除額90万円)の贈与税が発生します。(ただし、相続時精算課税制度を選択することで2.500万円以内であれば贈与時には非課税とすることもできます)

また、名義を書き換えた後、空き家を売却して得た利益に対しては別に20%程度の譲渡所得税が発生することに注意が必要です。

<名義人が認知症等の場合>

不動産の名義人が認知症の場合や、満足に字を書いたりすることができない場合でも、上記の原則は守らなければなりません。ただし、このような場合には財産管理委任契約や任意後見契約、法定後見制度(補助、保佐、後見)といった制度が用意されています。

この内、財産管理委任契約や任意後見契約はいずれも契約のため、名義人に契約できる能力がある必要があります。これに対して法定後見制度(補助、保佐、後見)は名義人に契約を締結できる能力がなくとも制度を利用して名義人に代わり、不動産の売却をすることが可能です。

<法定後見制度の3つのタイプ>

法定後見制度には補助、保佐、後見の3つのタイプがあります。補助は判断能力が不十分な人で、契約など難しい事に対しては援助が必要な人に対して認定されるものです。保佐は判断能力が著しく不十分な人で、重要な取引行為(借金や訴訟行為、新築、改築、増築等)ができない人に対して認定されるもの、後見はほとんど物事の判断ができない人のことで、日常の買い物なども難しい人に対して認定されます。

法定後見制度は、補助、保佐、後見のどれかに認定された場合、難しいとされる契約行為等を行う際に、その補助人や保佐人、後見人の同意がないと行うことができない、というものです。
この内、認知症になった両親の代わりに不動産の売却手続きを行う、という場合には法定後見制度の後見制度を利用する必要があります。

<法定後見制度(後見)利用の手順>

法定後見制度の3つのタイプの内、後見制度を利用するためには、

●後見開始の審判を家庭裁判所へ申し立てる

この時、申し立てができる人は、本人と配偶者、4親等までの親族となっています。

●本人のために必要な保護支援など事情に応じて家庭裁判所が後見人を選任。

後見人は複数の場合もありますし、親族以外の第三者が選任される場合もあります。

●成年後見人が不動産売却の必要性を家庭裁判所に申し立て、受理されれば本人に代わり不動産の売却が可能となります。

<法定後見制度(後見)利用に必要な書類>

法定後見制度の申し立て時には以下の書類が必要になります。

  • 名義人の戸籍謄本
  • 申立人の戸籍謄本
  • 後見人の戸籍謄本
  • 本人の診断書
  • 本人の精神状態についての鑑定書

まとめ

今回は、老人ホーム入居後に空き家となった実家を売却する手続き、手順、費用等をご紹介いたしました。すべてがスムーズに進むようポイントを押さえて手続きをすすめてください。