不動産の権利情報は、法務局で管理されている登記簿で管理しているため、不動産を売買したり相続したりして持ち主が変わった場合、所有権移転登記という手続きで登記上の所有者を変更する必要があります。
ただ、登記の手続きは日常生活で行うようなものではありません。
不動産業界に馴染みのない方だと何をすれば良いのかわからなくて当然なので、ここでは所有権移転登記の流れや費用、申請時の必要書類など、手続きに必要な知識を解説します。
所有権移転登記とは
所有権移転登記とは、家や土地の所有者が変わったときに、不動産の所有権を新しい持ち主のものへ書き換える手続きのことです。
日本では、不動産に関するさまざまな権利を「法務局」という公的機関の「登記簿」で管理しています。
内容の変更は基本的に権利者のみできるため、詐欺などの被害にでも遭わない限り、勝手に登記の中身が変更されることはありません。
所有権移転登記が必要なタイミングはいつ
●不動産を売却・購入したとき
所有権移転登記が必要になる最も一般的なタイミングは、不動産を売ったり買ったりして持ち主が変わるときです。
不動産売買時の所有権移転登記は、不動産の決済と引き渡しを行う日に、売り主と買い主の両方が揃った状態で行います。
お金を払ったのに不動産の権利が自分のものにならない、お金を受け取っていないのに不動産が相手の持ち物になってしまったといったトラブルを避けるための措置です。
●親などから不動産を贈与されたとき
親族でも第三者であっても、誰かから不動産を贈与された場合、所有権移転登記をする必要があります。
所有権移転登記なしで土地の権利書をもらった場合、名義は元の持ち主のままなので、贈与が完了したことにはなりません。
なお、贈与によって不動産を得ると、もらった不動産の資産価値に応じた贈与税がかかります。
親族の場合、生前贈与より相続で不動産を引き継いだほうが節税できるケースもあるため、親族から贈与を受けるときは贈与と相続どちらがお得か慎重に判断しましょう。
●親が亡くなって不動産を相続したとき
親が亡くなり遺産の一部として不動産を相続した場合も、所有権移転登記が必要です。
なお、通常の所有権移転登記は、元々の所有者と新しい所有者が共同で手続きすることになりますが、相続の場合は元の所有者が亡くなっているため、相続人だけで手続きを行います。
通常の所有者移転登記と少し条件が違うので、「公的な遺言書がある」「手書きの遺言がある」「遺産分割協議で分割を決めた」など、シチュエーションに合わせた申請書の準備が必要です。
売買や贈与に比べて書類の形式が多く、複雑なので、申請書を用意するときは司法書士や法務局のスタッフに相談すると良いでしょう。
●離婚で不動産を分与するとき
夫婦が結婚してから手に入れた財産は、現金であれ不動産であれ、離婚する際にお互いの寄与分に応じた額で分与する必要があります。
そのため、
- 共有名義の家をどちらか一方の名義にする
- 夫名義の家を妻に贈与する
など、登記簿上の所有者が変わる場合は所有権移転登記が必要です。
離婚時に十分な話し合いができていないと、後々ローンを払わなくなった、住民に告げることなく売却を決められた等のトラブルになるリスクもあるため、できれば離婚協議中に不動産の扱いも決めておきましょう。
当事者だけで話し合いができない場合は、弁護士を立てて協議するのもおすすめです。
所有権移転登記にかかる費用
●登録免許税
不動産の所有権を変更する場合、登録免許税という税金を納める必要があります。
登録免許税の納税額は、不動産の固定資産税評価額に登録免許税の税率をかけることで計算可能です。
不動産の固定資産税評価額は、毎年決まった時期に届く固定資産税の納税通知や、役所で発行できる固定資産評価証明書で調べられます。
なお、登録免許税の税率は、売買・相続・その他(贈与や競売など)という手続きの経緯と、土地か建物かによっても変わるので注意が必要です。
税率は0.4%から2%の間となっており、土地・建物の登録免許税はそれぞれ別個で計算する必要があります。
●プロに手続きをお願いする依頼料
所有権移転登記は、法務局という公的機関で行う手続きなので、必要書類に不備があったり申請書に抜け・漏れがあったりすると手続きできません。
また、法務局は基本的に平日の日中しか開いていないので、法務局まで足を運べない場合もあるでしょう。
そのため、所有権移転登記の手続きは司法書士や弁護士といったプロに委託できるようになっています。
プロに依頼する場合、実費とは別に数万円程度の報酬が必要です。
手続きの内容によって依頼料は変わりますが、一般的な売買や贈与なら5万円前後見ておくと良いでしょう。
●登記手続きの費用
所有権移転登記そのものにかかる費用として、以下のようなお金を負担する必要があります。
印紙税は、所有権移転登記を始め、大きなお金や財産を動かす契約書に添付する収入印紙の購入費です。
印紙税の金額は、契約書に記載している取引価格に応じて変わります。
また、所有権移転登記をする場合、住民票や印鑑証明書、登記事項証明書などの発行が必要です。これらの書類は発行そのものに数百円ほどのお金がかかります。
所有権移転登記の必要書類
●売買時の必要書類
不動産を売買して所有権移転登記を行う場合、以下の書類が必要です。
- 所有権移転登記の申請書
- 本人確認書類
- 印鑑証明書と実印
- 登記識別情報または権利証
- 固定資産評価証明書
- 住民票
- 委任状(司法書士に手続きを委託する場合)
- 売買契約書
本人確認書類と不動産の権利者が分かる書類、売買の実態を証明できる書類を提出します。
贈与や相続と違うのは、売買契約書が必須になる点です。
とはいえ、不動産売買では決済・物件の引き渡し・所有権移転登記を同日に行うので、不動産業者を通して手続きしていれば、事前に何が必要か指示してもらえます。
●贈与時の必要書類
贈与によって不動産の所有者が変わる場合、以下の書類を用意しましょう。
- 所有権移転登記の申請書
- 本人確認書類
- 印鑑証明書と実印
- 登記識別情報または権利証
- 固定資産評価証明書
- 住民票
- 委任状(司法書士に手続きを委託する場合)
- 贈与の契約書
基本的な書類は、売買のときと同じです。
ただし、所有者変更の経緯が売買ではなく贈与なので、売買のときと同様に、「贈与した」ことを証明できる書類が必要になってきます。
書面化していない状態、口約束での贈与は正式な贈与と認められない場合もあるため、不動産を贈与する場合も贈与される場合も、誰から誰へどういった不動産を贈与するのか明記した契約書を作っておきましょう。
●相続時の必要書類
親族からの相続で不動産を手に入れた場合、以下の書類が必要です。
- 所有権移転登記の申請書
- 相続人全員の本人確認書類
- 印鑑証明書と実印
- 故人と相続人それぞれの戸籍謄本
- 相続の経緯が分かる書類(遺産分割協議書・遺言など)
- 登記識別情報または権利証
- 固定資産評価証明書
- 住民票
- 委任状(司法書士に手続きを委託する場合)
相続による所有権移転登記、通称相続登記では、「公正証書遺言」「自筆証書遺言」「遺産分割協議」といった遺産相続の経緯によって利用する契約書が違います。
また、相続の場合、法的に故人の財産を受け継ぐ権利を持った人が複数いるケースもあるため、「故人と相続人全員の本人確認書類」が必要です。
免許証等の身分証明書の写しだけでなく戸籍謄本の取り寄せも行うので、相続による所有権移転登記は準備に時間がかかります。
所有権移転登記の流れ
所有権移転登記は、それぞれ以下のような流れで手続きを進めていくのが一般的です。
○売買・贈与
・不動産の売買契約・贈与契約を交わす
・決済日や引き渡しの当日に必要書類を司法書士に預ける
・所有権移転登記をして登記完了書を受け取る
○相続
・不動産を相続する
・遺言の確認や遺産分割協議で遺産の分け方を決める
・必要書類を用意して法務局に提出する
・登記完了証を受け取る
所有権移転登記の費用を抑える方法
●登録免許税の特例を使う
- 新築住宅を購入した
- 一定の要件を満たすリフォーム物件を購入した
- 家を買うときに住宅ローンを組んだ
上記の場合、税の軽減特例を利用できます。
本来、売買による建物の登録免許税は2%ですが、特例を使った場合は0.1~0.3%です。
また、土地に関しても2023年3月31日まで軽減税率が適用されるため、税率1.5%で納税できます。
●自分で登記の手続きをする
所有権移転登記を自分で行えば、司法書士への報酬を節約可能です。
司法書士への報酬は5万円前後が相場なので、大幅な節約ができるでしょう。
ただし、自分で手続きする場合、平日に法務局へ足を運んだり、書類の不備がないか細かくチェックしたりすることになります。
労力に見合った節約効果が得られるとは限らないので、手続きにかかる時間と節約額を比較して、どちらがお得なのかを考えましょう。
所有権移転登記を自分で行う方法
所有権移転登記を自分で行う方法は、以下の通りです。
- 法務局のWebsサイトから所有権移転登記の申請書をダウンロードして印刷する
- 必要書類を揃える
- 書類一式を法務局へ持っていく(郵送・オンライン提出も可能)
書類の提出後は、1週間ほど法務局のチェックを待ち、申請内容に問題がなければ登記事項証明書と登記完了証を発行してもらえます。
証明書は、窓口で受け取る方法だけでなく、郵送やオンライン送付に対応しているため、好みの方法で受け取りましょう。
まとめ
売買・贈与・相続で不動産の持ち主が変わる場合、法務局という公的機関で所有権移転登記をする必要があります。
手続きの流れは必要書類を揃えて法務局へ提出し、審査を待つだけなので、時間に余裕があるなら司法書士に依頼せず、自分で手続きするのもおすすめです。
ただ、必要な書類も多く、不備があると申請を受け付けてもらえません。
自分で申請する場合は、必要書類の抜け・漏れがないよう慎重に準備を進めましょう。